土方博之
2026.03.16
特攻精神
緊張の高まるオーディションだった。戦争を舞台とするオーディション、応募したときは思いがあってのことではなかったのだが、審査のための下調べをしていく中で感慨の思いが湧き上がって来た。終戦近くの日本国の状況、上層部の判断、若き兵隊やそれを取り巻く人たちの思い。特攻し敵に突っ込む作戦を、志願と言う名目の命令を出すものの思い、受けるものの思い、そんなものすべてがオーディション会場にも湧き上がっていた。
オーディションは、特攻隊員の部、女学生の部、その他の部で分けられていたが、当然自分はその他の部だ。しかし、その他の部には上官や教師、国防婦人会や父親に加えて、時間外で審査を受ける特攻隊員や女学生なども参加していたため、会場は物語全体の様相が漂っていた。様々な年代の老若男女が50名ほど集まり、候補役の全シナリオを読み合っていく。会場に到着したのは、開始30分前だったが、すでに10名ほどの受験者が着座してオーディション用の台本を読んでいた。皆、真剣なまなざしで演技プランを考えている様子だった。オーディションでは、会場には出来るだけ早めに向かっておく方がよい場合が多い。ギリギリに到着すると実技審査に向けての時間が取れないからだ。自分の実技審査は、国防婦人会を指揮する上官役、飛行隊長と整備長の対話が審査されたが、緊迫感がすごいのだ。
常日頃から特攻精神でオーディションに向かっているなどと思っていたが、自分の甘さを痛感した。これだけの役者集まり、戦争当時に思いを馳せて真剣に語り合う様は平和ボケした頭を殴られたような感覚を受けた。
オーディションは凝縮した時間での役者体験が行えるので前向きに取り組んでいるが、今回はかなりの正のダメージを受け、かなりの経験値も積めたような気がする。やはり役者生活は有意義だ。普通にすごしているだけでは味わえない体験を、数多く重ねることが出来る。
土方博之
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