安藤やすふじ
2020.01.25
帰郷、祖母の記録
2020年1月24日 金曜日 PM1:00 曇り
東京から帰郷した。
実家の祖母に会うためだ。
祖母はがんを患っており、久しぶりに病室で会ったときは、別人のようになっていた。
顔はやせ細り、髪は抜けおち、寝ているのか起きているのかわからない状態で、静かに息をしていた。
だが、意識はしっかりしており、僕のことも覚えていてくれた。
「腰が痛い」
時折、薄く目を開け、祖母は消え入りそうな声でそう口にする。
目の前で苦しんでいる人から直接言われたとき、それはとても厄介なもので、かわいそうだとか辛そうとか、イメージ最悪の言葉ばかり浮かんでしまう。
僕は他人の不幸を人ごとのように考えるのはよくないことだと常日頃、戒めるようにしてはいるものの、こういう場面ではどうしてもうまく言い表せない。
返す言葉にためらいを感じた後、僕はこう返事をした。
「仕方ないよなぁ」
ひどい言葉だろうか。
どう思っただろうか。
祖母は返事に対して何も答えない。
ただ、少し微笑んだようにも見えた。
本当に見えただけかもしれないが。
そうして、目をつぶりまた静かに息をする。
おそらく、ずっと、死ぬまで。
祖母を見ていると、生と死が表裏一体なのだと気づかされる。
着実に、祖母は死に向かっている。
もうさほど遠くはない未来に、訪れるであろう死を。
だが、同時に、この時、まだ祖母は生きていたのだ。
これが、その記録となり、祖母が生きた証となればこれ以上のものはないだろう。
「僕はおばあちゃんのこと、忘れんから、おばあちゃんも僕のこと忘れんといてな」
少し恥ずかしさ交じりの声で、僕は別れの言葉を口にする。
頑張れ、とも言わない。またね、とも言わない。
ただ、最後の時まで僕のことを覚えていてくれればそれでいい。
この日測った祖母の体温は36.5度だったことを、僕は忘れないだろう。